令和2年年初から「サポイン事業」と呼ばれる補助金が公募開始となります。サポイン事業は中小企業ものづくり基盤技術の高度化を支援する補助金として大型の補助金であり、対象となる事業に取り組む企業は是非とも検討していただきたいものです。
サポイン事業の公募要領や、申請方法など解りやすく解説します。
Contents
今回ご紹介する補助金は「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」です。一般的には、サポイン、サポイン事業、サポイン補助金などと呼ばれています。
補助金の正式名称は難しい漢字が並んでいることに加え、通称である「サポイン」という言葉の意味も解り辛いため、自社がサポイン事業に該当するのか解らないという事業者も多いようです。最初に、サポイン事業がどういった補助金なのかから解説していきましょう。
サポイン事業というのは、一般に聞きなれない言葉だと思います。このサポイン事業の意味から確認しておきましょう。
そもそも、「サポイン」という言葉は、「サポーティングインダストリー(略してサポイン)」のことであり、日本経済を牽引する重要な産業や、基盤となる技術を有する「ものづくり中小企業」を指す言葉です。具体的なサポインの例をあげれば、自動車、情報家電、金型、鍛造、鋳造、めっき等があげられます。
補助金として考えた場合、サポイン事業とは、「革新的ものづくり産業創出連携促進事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)」を意味します。やや解りづらい言葉だと思いますが、要素に分ければ、「革新的」、「ものづくり産業」、「連携促進」、「高度化促進」といったキーワードを含む言葉であることが解ります。
「ものづくり産業」「革新的」「高度化促進」から解るように、サポイン事業は「ものづくり技術」の開発、発展を支援するための補助金です。サポイン事業が定める基準を満たす高度化に取り組む中小企業者、小規模事業者を支援することを目的とした補助金になっています。
しかし、サポイン事業で忘れてはいけないのが「連携促進」です。
サポイン事業は中小企業者、小規模事業者が単独で取り組む事業を対象にしているものではなく、大学や、公設試験研究機関などと連携して行う、最終的な製品化を目的とした研究開発、試作品開発、販路開拓などの取り組みを支援するところに特徴があります。
サポイン事業(補助金)が実施される目的は、ものづくり基盤技術を持った「ものづくり中小企業」が、さらに高度な技術開発を行っていくことで、製造業の国際競争力強化と新たな事業創出を図ることにあります。
同様に、製造業のものづくり技術の発展を支援する補助金は別にありますが、サポイン事業の特徴としては、大学や研究機関などと連結して開発する事業に特化して支援していることがあげられます。
サポイン補助金の申請対象となる事業者には、一定の要件が定められています。サポイン事業に申請するには、以下の要件を充足しておく必要があります。
① 中小企業・小規模事業者と大学、公設試等による共同体
② 日本国内に本社を置き、国内で事業や研究開発を行っている
③ 総括研究代表者(PL / Project Leader)、副総括研究代表者(SL / Sub Leader)の選任が必要。うち1名は法認定事業者等の研究員。
中小企業・小規模事業者と大学、公設試等による共同体
サポイン事業(サポイン補助金)は単独の事業者では申請できません。必ず、大学、公設試等との共同体として申請する必要があります。
なお、共同体の参加者は正式には「事業管理機関(補助事業者)」と「研究等実施期間(間接補助事業者)」に分けられます。通常、事業管理機関とは、中小企業や小規模事業者などのことで、事業を行っている主体を指します。
▼サポイン補助金の中小企業者定義
一方、研究等実施機関とは研究開発等を行う研究者が所属する機関のことです。具体的には、大学や、公設試等のほか、大企業、中小企業、NPO、個人事業主なども含まれますが、法認定事業者等が 参画していることが求められます。
なお、法認定事業者等とは、ものづくり高度化法第4条に基づき、経済産業大臣の認定を受けた中小企業又は、地域未来投資促進法第13条に基づき、都道府県知事等の承認を受けた中小企業をいいます。
▼共同体のモデルケース
サポイン補助金の対象となる事業は、ものづくり高度化法第3条に基づき経済産業大臣が定める「特定ものづくり基盤技術高度化指針」に沿って策定され、新たにものづくり高度化法第4条の認定(法第5条の変更認定を含む。)を受けた特定研究開発等計画、または地域未来投資促進法第13条の承認を受けた地域経済牽引計画を基本とした研究開発等の事業になります。
サポイン補助金の要件を満たすことを確認するにあたり、以下の4つのポイントに注意しておく必要があります。
① 中小企業要件
② この事業の研究開発計画
③ 法認定計画との関係
④ 過去にこの事業に採択された法認定計画等
以降で、前述のサポイン補助金の対象事業を特定する4つのポイントを解説します。
中小企業要件
中小企業要件とは、サポイン補助金として受けとる補助金のうち、3分の2以上の金額を中小企業が受けるべきと定める要件です。
サポイン補助金は中小企業、大学などの研究機関が共同体として申請します。共同体で受け取った補助金の総額を、共同体内でどのように配分するかのルールにあたります。
この事業の研究開発計画
サポイン補助金が認める研究開発のポイントは以下になります。これら全ての基準を満たしておく必要があります。
・研究開発を伴わない事業は対象外(販路開拓のみなど)
・本質的な研究開発を共同体外へ委託・外注する事業は対象外
・製品化、事業化までの道筋が明確に描けているものが対象
・研究開発計画の終了後1年以内までにサンプル出荷等川下製造業者からの評価を受けることが可能な計画
・売上高の計画を明記できること
・事業化に向けた体制、スケジュールを明記し、補助対象期間の終了後、5年以内に事業化を達成できる目標が策定できる計画であること
以上が認められる研究開発となる最低限の要件です。特に重要となるポイントは、合理的・妥当性を持って、事業化・製品化できる計画や体制が用意できていることと考えておく必要があります。
法認定計画との関係
特定ものづくり基盤技術高度化指針に沿った申請書を作成する必要があります。
▼中小企業庁のホームページにて「特定ものづくり基盤技術高度化指針」の具体的な内容を示しています。
また、特定ものづくり基盤技術の対象としては以下の12の分野があげられます。これらの12分野のいずれかを対象としたものづくり技術であることが必要です。
特定ものづくり基盤技術
1 デザイン開発 |
製品の審美性のみならず、ユーザーが求める価値、使用によって得られる新たな経験の実現・経験の質的な向上等を追求することにより、製品自体の優位性に加え、製品と人、製品と社会の相互作用的な関わりも含めた価値創造に繋がる総合的な設計技術 |
2 情報処理 |
IT(情報技術)を活用することで製品や製造プロセスの機能や制御を実現する情報処理技術 |
3 精密加工 |
金属等の材料に対して機械加工・塑性加工等を施すことで精密な形状を生成する精密加工技術 |
4 製造環境 |
製造・流通等の現場の環境(温度、湿度、圧力、清浄度等)を制御・調整するものづくり環境調整技術 |
5 接合・実装 |
相変化、化学変化、塑性・弾性変形等により多様な素材・部品を接合・実装することで、力学特性、電気特性、光学特性、熱伝達特性、耐環境特性等の機能を顕現する接合・実装技術 |
6 立体造形 |
自由度が高い任意の立体形状を造形する立体造形技術 (ただし、(3)精密加工技術に含まれるものを除く。) |
7 表面処理 |
バルク(単独組織の部素材)では持ち得ない高度な機能性を基材に付加するための機能性界面・被覆膜形成技術 |
8 機械制御 |
力学的な動きを司る機構により動的特性を制御する動的機構技術 |
9 複合・新機能材料 |
部素材の生成等に際し、新たな原材料の開発、特性の異なる複数の原材料の組合せ等により、強度、剛性、耐摩耗性、耐食性、軽量等の物理特性や耐熱性、電気特性、化学特性等の特性を向上する又は従来にない新しい機能を顕現する複合・新機能材料技術 |
10 材料製造プロセス |
目的物である化学素材、金属・セラミックス素材、繊維素材及びそれらの複合素材の収量効率化や品質劣化回避による素材の品質向上、環境負荷・エネルギー消費の低減等のために、反応条件の制御、不要物の分解・除去、断熱等による熱効率の向上等を達成する材料製造プロセス技術 |
11 バイオ |
ヒトや微生物を含む多様な生物の持つ機能を解明・高度化することにより、医薬品や医療機器、エネルギー、食品、化学品等の製造、それらの評価・解析等の効率化及び高性能化を実現するバイオ技術 |
12 測定計測 |
適切な測定計測や信頼性の高い検査・評価等を実現するため、ニーズに応じたデータを取得する測定計測技術 |
過去にこの事業に採択された法認定計画等
過去にサポイン補助金に既に採択された法認定計画等を基にして、新たに申請をすることはできません(一つの法認定計画等で本事業に複数申請、採択を受けることはできません。)。
サポイン補助金で実際に受け取ることのできる補助金額や補助率は以下の通りです。
補助事業期間 |
2年度又は3年度 |
補助金額(上限額) |
補助事業あたり 単年度4,500万円以下 2年度の合計で、7,500万円以下 3年度の合計で、9,750万円以下 (定額補助率となる者については補助金総額の1/3以下) |
補助率 |
2/3以内 ※ただし、大学・公設試等の場合は定額 ※同一機関が複数の補助率を適用することはできない |
*平成31年実施のサポイン補助金をもとに作成
サポイン事業では、最大3年間の補助事業期間を設けることができます。3年間の補助事業期間の場合、最大で9,500万円の補助金を受け取ることができます。
サポイン補助金の対象となる経費には、設備投資で直接必要となる設備投資額だけでなく、人件費や、外注費なども対象となります。(詳細は後述)
但し、以下の点は留意しておく必要があります。
サポイン補助金の対象経費の条件
・経費の必要性、および金額の妥当性が証拠書類で確認できる
・事業の対象経費として明確に区分できるもの
・生産を目的とした機械装置備品の購入費は対象外
・補助金の交付決定日より前に発注、購入、契約をした経費は対象外
・補助事業期間後に納品、検収等を実施した経費は対象外
・単価が50万円以上(税抜き)となる経費の発注先事業者は相見積もりが必要
■物品費
設備備品費 |
・機械装置備品費 ・土木・建設工事費 ・保守・改造修理費 ・外注費 |
消耗品費 |
原材料、部品、消耗品等の購入に係る経費 |
■人件費・謝金
人件費 |
・研究員費 ・管理員費 ・補助員雇上費 |
謝金 |
委員等謝金及びアドバイザーや共同体外部の知見者から技術指導(技術流出防止を含む)を特に必要とする場合に支払われる謝金など |
■旅費
研究員、管理員及び委員等の旅費、滞在費及び交通費
■その他
外注費 |
原材料等の再加工、設計、分析、検査等を外部(外注先の機器を使って自ら行う場合を含む。)で行う場合に外注先への支払に要する経費 |
印刷製本費(報告書作成費) |
研究内容報告書等の印刷・製本及び電子ファイル作成に要した経費 |
会議費 |
事業遂行にあたり必要な知識、情報、意見等の交換、検討を行うための委員会開催に係る経費 |
運搬費 |
試作品や加工品等を共同体内で移動する場合に要する費用、共同体内から外注先への配送にかかる費用、展示会への出展等に際し必要となる運搬料等の支払に要する経費 |
その他(諸経費) |
・技術導入費 ・通訳・翻訳費 ・知的財産権関連経費 ・マーケティング調査費(海外における展示会等事業費も含む) ・賃貸借費 |
■委託費
事業の遂行に必要な調査等を共同体の構成員以外へ委託するために支払われる経費
■間接経費
事業の実施に伴い管理等に必要な経費として、直接経費(「物品費」、「人件費・謝金」、「旅費」、「その他」)の合計の30%を上限に計上できる経費
サポイン補助金の申請を希望される場合には、決められた期間内に申請を行う必要があります。
令和2年度のサポイン補助金は、実施は決定していますが、詳細な公募要領などはまだ未定です。以下は、令和元年(平成31年)に実施された申請内容を参考として記載いたします。
以下、サポイン補助金の申請に最低限必要な項目です。
公募期間
平成31年1月28日(月)~平成31年4月24日(木)
およそ、3ヶ月間の公募期間が設けられています。サポイン補助金の申請は準備がかなり煩雑でもあります。3ヶ月というのは長いようですが、実際は時間が足らず、かなり短いと感じるでしょう。
採択件数
平成31年度のサポイン補助金の公募時点の採択件数(予定)は110件でした。
なお、平成31年度のサポイン補助金の採択実績(結果)は、304件の申請があり、そのうち137件の事業が採択されました。採択率は45%です。当初予定されていた110件の採択予定件数からは、かなり大幅に増加して採択されています。
なお、サポイン補助金の予定採択数110件は少ないようですが、サポイン事業の要件はかなり厳しく、手続きも煩雑であるため、申請件数自体も304件という少数になっていました。
採択結果の公表
サポイン補助金の採択結果が公表される時期は明確に特定されていません。
平成31年のサポイン補助金公募では、5月下旬~6月上旬が公表予定となり、結果、6月4日に公表されました。
中小企業庁が実施するサポイン補助金では、以下のような点を中心として審査が行われます。補助金の申請書を作成する際には、この点を満たすことを意識しておく必要があります。
技術面の審査項目
サポイン事業の目的である「製造業の国際競争力強化」につながる研究開発であることが求められます。また、研究開発を実施可能な組織体制があることも要件となります。そのうえで、以下の点がポイントとなります。
① 技術の新規性、独創性及び革新性
② 研究開発目標値の妥当性
③ 目標達成のための課題と解決方法及びその具体的実施内容
④ 研究開発の波及効果
事業化面からの審査項目
サポイン事業としては、研究開発成果が事業化された時に、どの程度の経済効果が期待できるか、またコスト面において市場導入の可能性があるか等について審査されます。
① 目標を達成するための経営的基礎力
② 事業化計画の妥当性
③ 事業化による経済効果
政策面からの審査項目
サポイン補助金に申請する研究開発は、政府が推進する政策に沿った計画であることが求められます。
① 産業政策との整合性
② 中小企業政策との整合性
サポイン補助金に申請される場合、上記3つの審査の観点(技術面、事業化面、政策面)を、いずれも満たしておく必要があります。加えて、これらの内容が申請書上で読み取れるように表現されている必要があります。
ものづくり技術の高度化、設備投資を対象とした補助金はサポイン補助金だけでなく、「ものづくり補助金」も用意されています。
製造業の方が補助金申請を希望される場合、どちらの補助金に申請されるのが良いかと質問されることも多々あります。この2つの補助金(サポイン補助金、ものづくり補助金)の違いは以下と理解しておきましょう。
・サポイン補助金
ものづくり技術の高度化を目的とした「研究開発」が対象。中小企業、小規模事業者単独での申請はできず、大学などの研究機関との共同体による申請が必要
・ものづくり補助金
革新的取り組み(新商品・新サービスの開発、生産性向上の取り組みなど)を図る中小企業者、小規模事業者の設備投資を目的とした補助金。単独申請が原則。
ものづくり補助金は必ずしも、研究開発を要しません。機械メーカーなどから購入する設備でも対象となります。また、事業者が単独で申請できるため、中小企業、小規模事業者にとって、利用しやすい補助金と言って良いでしょう。
▼ものづくり補助金とは?
アステップ・コンサルティングでは各種補助金申請のサポートを行っております。
サポイン補助金の公募要領は複雑であり、求められる要件を充足し、さらに審査基準を満たす事業計画、申請書を作成することも大変なものです。特に、補助金申請になれていない事業者が、単独で準備しようとしても、経営者や従業員の工数を無駄に消費してしまいかねません。
補助金申請の経験が豊富なアステップでは、事業計画の作成から、申請書作成、各種手続きなど、幅広くサポートしています。
サポイン事業に対する補助金の公募は、例年、年一回で実施されています。そして、毎年、1月末頃から公募されることが多いため、令和2年のサポイン補助金も同時期に実施されると予想されます。
サポイン補助金を得られれば、ものづくり技術を持った事業者の競争力を高めるための研究開発を補助金によって行うこともできるようになります。対象となる事業者の方は、是非、年一回の公募を見逃さないようにしましょう。
関連記事
03-5859-5878受付10:00~18:00