ものづくり補助金は、持続化補助金(通称)と並んでとても人気のある補助金です。
皆さんは、ものづくり補助金とは、どのような補助金かご存知でしょうか?
最大のポイントは、その補助金額の大きさです。最大で1,000万円の補助金額は、無利子・返済不要ですので、中小企業にとってとても魅力的なものとなっています。
補助金を活用するメリットとしては、返済不要な資金なので、お金の面でプラスになるということ以上に、申請書などを作成する上で自社の将来の姿をきちんと描ける良い機会になることがあげられます。
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一方、一定の条件を満たし、所定の手続きを踏めばお金がはいる助成金とは異なり、補助金は、審査を経て採択されるかどうかで決定されます。
専門家が、申請書の内容を審査して、評価点の高い申請が採択されますので、ものづくり補助金を受けられるのは、申請書の出来次第となります。
どんなに素晴らしい革新的なサービス・試作品の開発」であっても、記載された内容が求められていないものだったり、うまく伝えきれなかったりすると‘補助金’という果実は得られません。
本稿では、中小企業が取り組まれる「革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善」について、多くの皆様が「採択される補助金づくり」のヒントになるよう取りまとめています。
ものづくり補助金の事業概要については、PDFで100頁近い公募要領が公開されています。
ボリュームも多く、理解しづらい内容もありますので、補助金申請に不慣れな事業者にとっては、内容を把握するに苦労することになるかと思います。
特に留意すべき事項は、別紙で取りまとめ、抜け漏れがないかを随時、確認する工夫が必要となります。
【留意すべき事項】
① 事業類型
事業類型によって、申請要件や補助金額などが事業類型ごとに異なってきますので、自社が申請したい類型を充分に検討・確認する必要があります。
② 日程
ものづくり補助金の申請には、自社の申請書だけではなく、商工会議所など認定支援機関の確認書が必要となっており、数日を要する場合もあります。また、申請書を送付する時にも、必要書類の確認、製本、CD-ROM作成など時間を要する作業もあります。
そのため、締め切りを考慮した申請作業日程の調整が必要です。
形式要件の不備は、審査以前に受付却下として審査もされない可能性がありますので、ご注意願います。少なくない割合(数%)で、受付却下があるといわれています。
③ 加点
申請内容の良し悪しもありますが、加点要素も採択には大きく影響します。公募要領に記載されている加点要素は必ず確認し、該当する場合には、必ず申請しましょう。過去の公募要領などを参照して、前もって準備できることは準備するようにしましょう。
今年の一次公募で「先端設備等投資計画」の扱いが、事業者や支援者で判断が異なっていたのは、記憶に新しいところです。
応募件数や採択率はどれくらいか?どのような事業テーマが採択されているか?を調べておくのも重要です。過去の採択率は、平均で40%強、二人に一人以上は残念な結果となっています。
平成29年度補正二次公募では、西日本大水害の影響で、二次募集はないのではないかとの噂も出回るなど、経済や社会状況によっても、採択率が変わってくるといわれています。
また、採択された案件は、事業者名や事業テーマがPDFの一覧表として公開されています。そのPDFをネット上の無料ツールでエクセル変換して、‘AI,IOT’などテキスト検索などで事業テーマを検索するのもとても有用です。例えば、過去には採択件数も多かった
’ドローン‘に関わる事業では、今は、一ひねりして差別化した事業でないと採択される難しいのでは?’と言われています。過去の採択事例を参考に事業テーマの見直し、ブラシュアップも必要なステップです。
平均の採択率が50%を割る状況では、正直にいって事業者だけで申請書を作成した場合、採択されるのかなり難しいと言わざるをえません。
所定の申請所で用意されている数行のスペースだけを使った申請書は、まずアウトです。少しでも採択の可能性を高めるためには、申請書の作成を支援してくれる人(機関)と採点者の視点など審査の仕組みを理解する必要があります。
申請書提出段階では、認定支援機関の確認書が必要となりますので、適宜、認定支援機関のチェック・アドバイスなどを受けるのがよろしいかと思います。
支援者は、大まかには下記のとおり二つに分類されます。
支援者 |
機関名 |
メリット |
デメリット |
公的機関 |
商工会議所など |
・無料 ・一定の専門知見でアドバイスをしてくれる |
・一社に時間を要せないため修正などは自力 ・郵送実務は自社 |
民間 |
金融機関、税理士など士業 |
・作成、郵送実務、実績報告など一連を支援 ・自社に集中して時間を割いてもらえる |
・サービスの内容によりお金がかかる ・自社で経営計画を作る目的が達成されない |
ものづくり補助金の採点者は、複数のチームで行われます。チームは、技術面を主として担当する技術士などの専門家と、事業化面を主として担当する中小企業診断士などの専門家で構成されています。
短い期間でそれなりの量の採点をするといわれていますので、内容面以上に、まずは、「読む気になってもらえる申請書」を心がけましょう。
(参考:申請書作成上の留意点)
・抽象的で難解な表現よりも具体的で平易な表現
・一文一意(接続詞で文章をつなげすぎない)
・「ですます」調と「である」調の混在はさける
・専門用語は注釈を入れる
・フォントの統一
・下線付きや太字でキーワードを強調
・段落番号、箇条書きなどの活用
・図を活用する(自社の商品紹介や製造工程など)
・表を活用する(経営数値の経年変化など)
採択されるための最大のポイントは、一言でいえば、「求められていることを書く」ということになります。
ものづくり補助金に限らず、補助金の公募要領には、「審査する際のポイント」が書かれています。平成29年度補正予算二次公募の要領でも、「表2:審査項目」が添付されています。
申請書を作成するうえでは、まず、「審査のポイントを確認すること」と「審査のポイントに沿った記述をすること」が、もっとも重要となります。
実際に、申請書【様式2】事業計画を確認してみましょう。
【様式2】事業計画は、「その1:革新的な試作品開発・生産プロセスの改善の具体的な取組内容」と「その2:将来の展望(本事業の成果の事業化に向けて想定している内容及び期待される効果)」の二つに分かれています。
それぞれ何を記載するのでしょうか?
私自身、数多くの申請書作成の支援を行っていますし、審査員経験者に聴くと、かなりの申請書が、きちんと切り分けて記載されていないことが解ります。
公募要項をよく読んでいただくと、実は、記載すべき項目が審査項目と関連付けられて説明されています。これを見逃してしまい、ポイントをとらえていない申請書が多いのは残念なことです。
~公募要領から抜粋~ その1:革新的な試作品開発・生産プロセスの改善の具体的な取組内容 ・表2:審査項目(2)参照 ・事業期間内においては機械装置等の取得時期や技術の導入時期についての詳細なスケジュールの記入が必要となります。(審査項目(2)①~④参照) ・本事業を行うことによって、どのように他者と差別化し競争力強化が実現するかについて、その方法や仕組み、実施体制など、具体的に説明してください。(審査項目(2)③、④参照) その2:将来の展望(本事業の成果の事業化に向けて想定している内容及び期待される効果) ・本事業の成果が寄与すると想定している具体的なユーザー、マーケット及び市場規模等について、その成果の価格的・性能的な優位性・収益性や現在の市場規模も踏まえて記載してください。(審査項目(3)②参照) ・本事業の成果の事業化見込みについて、目標となる時期・売上規模・量産化時の製品等の価格等について簡潔に記載してください。(審査項目(3)③参照) ・「革新的なサービスの創出・サービス提供プロセスの改善を行い、3~5年計画で「付加価値額」年率3%及び「経常利益」年率1%の向上を達成する計画」の根拠を具体的に記載してください(詳細を別添資料とすることも可能)。(:審査項目(3)④参照) |
公募要領の上記記載内容から判断して、審査項目(2)(*次表の赤字部分)は、その1:革新的な試作品開発・生産プロセスの改善の具体的な取組内容に記載すべき項目、審査項目(2)(*次表の青字部分)は、その2:将来の展望(本事業の成果の事業化に向けて想定している内容及び期待される効果)に記載すべき項目であることがわかります。
また、時間軸でも考えても、その1は、過去から補助機関の前後の6ケ月相当、その2は、今後3~5年の計画を記載することを念頭に置けば、わかりやすいかと思います。
ご参考までに、その1とその2に記載すべき内容を目次ベースで整理してみました。
その1:革新的なサービスの創出・サービス提供プロセスの改善の具体的な取組内容
1.自社の概要
(1) 経営理念
(2) 沿革
(3) 主たる商品
(4) 財務の状況
2.経営環境
(1)外部環境(機会・脅威)
(2)内部環境(強み・弱み)
3.補助事業取り組みの背景
(1)市場・顧客のニーズ
(2)現状の課題(製造、営業、経営管理)
4.補助事業の取組み
(1)取組方針
(2)経営課題の解決方法
(3)設備投資による解決
・技術的な課題
・課題解決の方向性
(4)達成目標
(5)スケジュール
(6)実施の体制
(7)実現可能性:財務状態と資金調達の説明
その2:将来の展望
Ⅰ市場の動向
(1)マーケット及び市場動向
(2)競合の状況/差別化要因
Ⅱ本事業の取組による効果(3~5年)
(1)本事業の革新性、競争力強化の源泉
(2)補助事業の成果がもたらす事業の展望(事業化ステップ)
(3)事業化スケジュール/体制
(4)中期損益計画計画
*「付加価値額」年率3%及び「経常利益」年率1%の向上は、必須の要件
(5)地域経済と雇用の支援、従業員の賃上げなど
-審査項目(一部抜粋)-
申請書を作成する上で、「ものづくり技術」と「革新的サービス」のどちらで申請したほうが作成しやすいのかとか採択されやすいのかという点に悩まれている事業者も多いかと思います。
一般的には、製造業は「ものづくり技術」製造業以外は「革新的サービス」が書きやすいとは言われています。特に、家具製造業など個人顧客に近いBtoCが中心の製造業は、申請書作成支援者も含めて選択に頭を悩ませるところです。
結局は、公募要領に指示のあるとおりにどちらが書きやすいのかが判断ポイントになるかと思います。
-公募要領-
書き方の例としては、ネット上で検索すると色々と参考となる事例があります。補助事業や将来のビジネス化の取組に応じて、ご自分の書きやすい内容で記入してください。
【革新的サービス事例】
付加価値の強化 |
取り組み内容 |
達成目標 |
新規顧客層への展開 |
未開拓であった○○地域へトップセールスで訪問営業を行う。新商品自体を持参し、お客様への提案を行う。 |
3年間で新たな販売チャネルを5社開拓する |
【ものづくり技術】
特定ものづくり基盤技術 |
高度化目標 |
取り組み内容 |
達成目標 |
デザイン開発に係る技 |
審美性・感性価値の向上 |
インハウスデザイナーとして、海外で実績のあるデザイナーを招聘し、海外での利用方法に応じて、色彩戦略を立てる |
顧客満足度70% (アンケート) |
ものづくり補助金の申請書を作成する上で最も大切なことは、‘自社の将来の姿をきちんと描くこと’です。
採択される補助金の申請書とは、第三者から見て「納得感のある事業計画書がきちんと書かれている」と評価されるものであると考えましょう。
ものづくり補助金の申請で必要となる事業計画は、環境変化に応じ、柔軟に改善・手直しし、経営者自身が納得するレベルの水準で作成することが重要だと理解していただきたいと思います。
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