2022年ものづくり補助金に申請するためには「賃上げ要件」を満たさないといけないという条件があります。
また、賃上げ程度次第では加点にもなります。
一方、賃上げの実施状況次第では、ものづくり補助金受領後に返還を求められることもあります。
間違えやすいにも関わらず、非常に重要なポイントとなる ものづくり補助金の賃上げ要件・賃上げ加点について解説します。
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ものづくり補助金の正式名称は「令和元年度補正・令和三年度補正ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」と言い、中小企業庁が毎年実施する人気の補助金制度です。
ものづくり補助金に申請できる方の対象者や、申請するために満たすべき要件、審査規準などは毎年改正が加えられますので、実際に申請される時の制度を良く確認する必要があります。
そして、2022年ものづくり補助金の申請要件として重要なものに「賃上げ要件」があります。
要件とは、この条件を満たさないと申請することができないという最低条件のことを意味します。
つまり、賃上げに取り組まないと、ものづくり補助金に申請できないという条件があるのです。
しかし、この「ものづくり補助金」の賃上げ要件は以外と複雑です。
安易に理解したつもりでいると、誤解やミスで大きな失敗につながることがあります。
賃上げ要件の理解が不十分で、要件を満たす対応が出来ていないと申請が認められなくなるだけでなく、補助金で設備投資を行った後に、補助金の返還を求められてしまうことすらあり得ます。
そういった最悪の事態を防ぐためにも、ものづくり補助金の賃上げ要件について良く理解しておきましょう。
ものづくり補助金の賃上げ要件には、①給与支給総額、⓶事業場内最低賃金、といった2つの項目があります。
この2つの賃上げ要件をいずれも満たす事業計画書を作成している必要があります。
それぞれの要件を確認してみましょう。
₁.給与支給総額の要件
事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加
(被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加)
年率平均1.5%以上の賃上げ目標ですので、仮に作成する事業計画が5ヶ年計画であれば、5年後には7.5%以上(=1.5%×5年)、3年計画であれば3年後に4.5%以上(=1.5%×3年)の賃上げを目標にしていることが求められます。
2.事業場内最低賃金の要件
事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にする。
ものづくり補助金が定める「事業場」とは、実際に設備を導入する事業実施場所です。
対象となる事業場内において、時給換算で最も賃金が低い方でも「地域別最低賃金+30円以上」とする必要があります。
給与支給総額が全体として年率1.5%以上の増加を実現しても、従業員単位で見て、地域別最低賃金+30円未満となる従業員が存在するなら、賃上げ要件は満たさないということになります。
もちろん、この賃上げ要件は正社員だけでなく、パート、アルバイトといった従業員も含まれます。
なお、この地域別最低賃金+30円以上は、事業実施期間内での実現が求められます。
そのため、ものづくり補助金への申請時には達成できていなくても問題ありませんが、補助金受領後、次に到来する3月までに充足しておく必要があります。
以上の通り、給与支給総額、事業場内最低賃金の賃上げ要件とは、会社全体で見ても、従業員個人に対しても、ものづくり補助金が定める基準を満たすように賃上げに取り組むことを求めるものです。
前述の通り、ものづくり補助金に申請するためには、賃上げ要件を満たす事業計画を作成する必要があります。
それでは、賃上げ要件の1つ目である「給与支給総額」とはどのように計算すれば良いのでしょうか。
ものづくり補助金における「給与支給総額」は以下のように定義されています。
給与支給総額=給料+賃金+賞与+役員報酬
(注意)福利厚生費、法定福利費や退職金は含まない
給与支給総額の計算には、福利厚生費や、法定福利費、退職金は含まれないということに注意が必要です。
つまり、一般的に言われる「人件費」と「給与支給総額」は計算方法が異なりますので、誤って人件費で計算しないようにしましょう。
あくまで、給料・賞与などが計算の対象になります。
一方で、役員報酬も給与支給総額に含まれています。
そのため、極端に言えば、従業員に対して支払う給料、賞与が増加せず、役員報酬だけを増加させて、給与支給総額を上昇させても問題ないということになります。
また、この給料には原価に含まれる賃金も含まれます。
決算書から計算する場合、販売管理費内の給与額だけで計算すると誤りになる可能性がありますので注意しましょう。
なお、ものづくり補助金の賃上げ要件を満たすためには、単に前述の条件(給与支給総額を年率平均1.5%増加、地域別最低賃金+30円)を満たす事業計画を作成すれば完了というものではありません。
この賃上げ要件を満たす「賃上げ計画の表明書」を作成し、従業員の代表者にも署名・捺印をもらう必要があります。
また、この署名する従業員のなかには、「事業場内で最低賃金で働く従業員」が含まれている必要があります。
🔻賃上げ表明書(書式例)
このような賃上げ計画を作成したうえで従業員にも表明しておく必要があります。
仮に、従業員に表明していなかったことが判明した場合、せっかく「ものづくり補助金」を受領していても返還を求められることがありますので注意が必要です。
なお、公募要領には以下のように記載されています。
「申請時点で、申請要件を満たす賃金引上げ計画を従業員に表明することが必要です。
交付後に表明していないことが発覚した場合は、補助金額の返還を求めます。
(引用:ものづくり補助金公募要領)」
前述の通り、「給与支給総額が年率1.5%以上増加すること」、および「事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上」を満たす事業計画であることが、ものづくり補助金に申請するための要件(最低条件)となっています。
ですので、賃上げ要件を満たさないと、ものづくり補助金には申請すらできません。
加えて、この給与支給総額と事業場内最低賃金の目標を、さらに高い水準におくことは、ものづくり補助金の加点要素として扱われています。
加点要素とは、通常の審査項目とは別枠で、審査のプラスの評価が得られるものであり、その分採択されやすくなるものです。
つまり、給与支給総額を最低条件の年率1.5%以上から、年率2%以上、もしくは3%以上と高い水準で目標設定することで加点が得られるようになります。
同時に、事業場内最低賃金も、地域別最低賃金+30円から、地域別最低賃金+60円、地域別最低賃金+90円と高い目標を設定することで加点要素となるのです。
なお、ものづくり補助金の賃上げ加点を狙う場合、給与支給総額の増加目標と事業場内最低賃金+60円(もしくは90円)はいずれも満たしておく必要があります。
どちらか一方だけ高い目標を設定しても、加点対象にはなりません。
■賃上げ加点の一覧
給与支給総額 | 事業場内最低賃金 | |
申請要件(最低水準) | 年率1.5%以上 | 地域別最低賃金+30円 |
加点要素① | 年率2%以上 | 地域別最低賃金+60円 |
加点要素⓶ | 年率3%以上 | 地域別最低賃金+90円 |
ものづくり補助金は税金を原資として行われている補助金ですので、単に事業者の利益が増えるだけでなく、増えた利益を従業員に積極的に配分(給与支給)する事業の方が採択されやすくなります。
実際、賃上げ目標次第では、加点となることが明言されています。
また、後述しますが、ものづくり補助金を受けて事業を実施した結果、期待に沿う結果が得られなかった場合には、実際の賃上げが出来なくても問題にならない基準も設けられています。
そのため、事業計画書の作成時点では、積極的な賃上げ計画を盛り込むことも大切です。
ものづくり補助金への申請時に立てた「賃上げ計画」は、審査で採択された場合には履行するのが原則です。
賃上げ計画は単なる計画ではなく、約束であると考える必要があります。
また、事業実施期間内において賃上げ目標が未達成の場合、受け取った「ものづくり補助金」の返還が求められることもあります。
せっかく補助金で設備投資を行ったにもかかわらず、その補助金の返還を求められてしまっては経営に与える影響も大きいでしょう。
返還額次第では資金繰りに窮することもあるでしょう。
そのため、こういった返還を求められないように注意する必要があります。
ここでは、賃上げ目標の達成・未達成を原因とする補助金返還の規定を確認しておきましょう。
ものづくり補助金(2020年度)の公募要領には、賃上げ目標の未達成を原因とする返還に関し、以下のように規定されています。
① 給与支給総額の増加目標が未達の場合
事業計画終了時点において、給与支給総額の年率平均1.5%以上増加目標が達成できていない場合は、導入した設備等の簿価又は時価のいずれか低い方の額のうち補助金額に対応する分(残存簿価等×補助金額/実際の購入金額)の返還を求めます。
② 事業場内最低賃金の増加目標が未達の場合
事業計画中の毎年3月時点において、事業場内最低賃金の増加目標が達成できていない場合は、補助金額を事業計画年数で除した額の返還を求めます。
補助金の返還は、給与支給総額の増加と、事業場内最低賃金のそれぞれの未達成時において条件がつけられています。
どちらか一方だけでも未達成なら、それだけで補助金の返還を求められる可能性があります。
給与支給総額の達成・未達成を判別されるタイミングは、ものづくり補助金における「事業計画終了時点」です。
当初申請時に3年計画を作成すれば3年後、5年計画であれば5年後となります。
この終了時点において給与支給総額が年率1.5%以上の増加を達成していないと、補助金の返還を求められます。
そして、返還額は、以下の計算式によって求められます。
給与支給総額の増加目標未達成時の要返還額
要返還額=残存簿価等×補助金額/実際の購入金額
あくまでその時点の残存簿価を対象として、返還が必要となる金額が計算されます。
一方、事業場内最低賃金は毎年3月時点において確認されます。
給与支給総額のように計画終了時点ではないことに注意が必要です。
終了後ではなく、毎年の確認です。
仮に、加点を受けるために、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+90円に設定した場合、補助事業実施から最初に来る3月時点において、この増加目標を達成するように取り組んでおかなければなりません。
この賃上げ目標を達成できていないと補助金の返還を求められてしまうこともあるためです。
事業場内最低賃金が目標未達の場合の補助金返還額は、受け取った補助金を事業計画年数で除した額となります。
3年計画であれば3分の1、5年計画であれば5分の1といった計算になりますが、実際の返還額はその都度事務局が計算します。
■賃上げ目標が未達成の時に返還を求められる補助金額
給与支給総額 | 事業場内最低賃金 | |
返還が必要な補助金額 | 残存簿価等×補助金額/実際の購入金額 | 補助金額を事業計画年数で除した額 |
確認を受ける時期 | 事業計画終了時点 | 毎年3月時点 |
なお、給与支給総額、及び事業場内最低賃金が増加目標を達成できなかった場合でも、補助金の返還を求められないケースもあります。
こちらも確認しておきましょう。
まず、ものづくり補助金の公募要領に定められている「賃上げ目標が未達でも返還を求めない場合」について確認しましょう。
公募要領には以下のように記述されています。
① 給与支給総額の増加目標が未達でも返還を求められないケース
・付加価値額が目標通りに伸びなかった場合に給与支給総額の目標達成を求めることは困難なことから、給与支給総額の年率増加率平均が「付加価値額の年率増加率平均/2」を越えている場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、上記の補助金一部返還を求めません。
そもそも、申請時に作成した事業計画の付加価値額が目標通りに増加しなかった場合には、給与支給総額の増加目標が未達でも容認されることになっています。
付加価値額とは、営業利益+人件費+減価償却費で計算される利益の指標です。
つまり、事業者として予定していた利益(付加価値額)を達成しているのに、それを給与支給総額として従業員に還元しなかった場合に返還を求めるということになります。
・給与支給総額を用いることが適切ではないと解される特別な事情がある場合には、給与支給総額増加率に代えて、一人当たり賃金の増加率を用いることを認めます。
また、給与支給総額での計算が実態を反映できない場合には、一人当たり賃金の増加率を使用することも認められています。
給与支給総額での計算が適切でない場合とは、主に、小規模事業者などで従業員数が少なく、計画期間中に意図せず、従業員が退職してしまい、補充もできなかったという場合が該当します。
従業員は採用したくても、小規模事業者の場合、外部環境によって採用が容易でないこともあります。
こういった場合、給与支給総額の増加は難しいが、1人あたり従業員の支給総額を増加させていれば返還を求められないこともあります。
なお、給与支給総額が未達で、上記のような「返還を求めないケース」に該当しない場合でも、ものづくり補助金で受けとった補助金額全額を返還するわけではありません。
返還が必要となる補助金の額は、計画終了時点の簿価が基準となって計算されます。
そのため、仮に5年償却となる設備を購入し、5年間の事業計画で取り組んでいた場合は、計画終了時点の簿価もほぼ「0」ということになりますので、補助金の返還額も発生しないということになります。
② 事業場内最低賃金の増加目標が未達でも返還を求められないケース
・付加価値額増加率が年率平均1.5%に達しない場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、上記の補助金一部返還を求めません。
事業場内最低賃金の未達においても、給与支給総額と同様の規定が設けられています。
そもそも、付加価値額の増加率が年率平均1.5%以上に達していない場合、および天災などの原因がある場合には、事業場内最低賃金の増加目標が達成できていなくても返還を求められません。
なお、給与支給総額の目標未達成が認められるのは、付加価値額が目標通りに伸びなかった場合ですが、事業場内最低賃金の返還が求められないのは、付加価値額が年率1.5%以上伸びていない場合です。
同じ付加価値額でも、基準に違いがあることは理解しておいた方が良いでしょう。
■賃上げ目標が未達成でも補助金の返還を求められないケース
給与支給総額 | 事業場内最低賃金 | |
付加価値額の増加 | 目標未達成 | 年率1.5%以上伸びていない |
その他 | 天災など事業者の責めに負わない理由がある場合 | 天災など事業者の責めに負わない理由がある場合 |
ここまで、2021年ものづくり補助金で加えられて賃上げ要件、賃上げ加点の考え方について解説してきました。
賃上げ加点の考え方、規定については法人、個人事業主を問わず、ほぼ同一のルールとなっています。
しかし、給与支給総額の計算方法などで、個人事業主は解り辛く、誤りやすいので注意が必要です。
前述の通り、ものづくり補助金の賃上げ要件においては、給与支給総額は以下で計算されます。
給与支給総額=給料+賃金+賞与+役員報酬
しかし、この計算式は、法人の決算書類をもとに定められていますので、個人事業主の確定申告書類でそのまま適用して計算することは困難です。
この点、ものづくり補助金には、以下のように定められています。
給与支給総額=給料賃金+専従者給与+青色申告特別控除前の所得金額(⑳+㊳+㊸)
*2022年申請基準時点
そのため、ご自身が申請する際には、その時点での最新情報を確認する必要があります。
個人事業主の確定申告書(青色申告決算書)には法人決算書類のような「役員報酬」という項目がありません。
また、法人決算書が営業利益などを計算するのに対し、個人事業主には営業利益などの概念もありません。
そのため、給与支給総額を計算する場合も、法人と同様には計算できないのです。
個人事業主の場合、製造原価に給与・賃金を加えている方は、こちらも給与支給総額に含まないという違いがあります。
これも上記の計算方法通りですが、法人との違いになります。
ですので、実際に個人事業主が従業員に支払った給料などと、ものづくり補助金の申請でき記載する給与支給総額が大幅に異なるということもあり得ます。
ものづくり補助金への申請時に「賃上げ要件」をクリアし、賃上げ加点を利用する方法などを解説いたしました。
賃上げに関する規定、取り決めなどはこちらでご説明いたしました通りですので、しっかりと確認しながら進めて頂ければ問題はないと思います。
しかし、ご多忙な経営者の方などは、賃上げ要件を満たす事業計画書を作成したり、詳細な規定を確認しながら準備するのも困難という方も多いでしょう。
そういった経営者の方は、是非ともアステップ・コンサルティングにご相談ください。
アステップ・コンサルティングでは事業計画書の作成、賃上げ要件などの条件確認、加点項目対応など、ものづくり補助金の申請手続き全般をサポートいたします。
これまで多数の「ものづくり補助金」の申請・採択実績を有するアステップ・コンサルティングが全力でサポートいたします。
今回はものづくり補助金に申請するための「賃上げ要件」、「賃上げ加点」などを解説いたしました。
ものづくり補助金の申請には、以下の2つの賃上げ加点を満たす事業計画書の作成が必要です。
・給与支給総額を年率1.5%以上増加
・事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上
また、賃上げ目標次第では加点要素となって、ものづくり補助金に採択されやすくなるといった項目にもなります。
賃上げ要件は「賃上げ計画の表明書」の作成や、従業員への表明・説明なども求められます。
ミス・漏れなく対応することが大切ですので、しっかりと確認してご準備してください。
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