事業継続力強化計画の制度は、2019年に創設されたばかりの新しい制度です。最近増えている自然災害への対策を促進すること、またそれによる経済効果も目的として、中小企業へ向けた支援をする事業です。
始まったばかりで、まだ馴染みの薄い制度だと思われますが、活用すれば資金調達、補助金申請などに効果を発揮します。事業継続力強化計画のメリットや申請方法などを解説します。
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近年、大地震や台風・豪雨などの、大規模自然災害が各地で頻発しています。また、首都圏直下地震が近い将来発生することが予測されるなど、将来的にも自然災害を無視して経営することは難しくなっています。
災害によって工場にダメージを受けたり、従業員が勤務できなくなるといった被害が発生すれば、事業者それぞれの経営に大きな影響を与えることになるでしょう。さらに、サプライチェーンといって、製品やサービスが、原料の段階から消費者の手にわたるまでのプロセス自体にも影響を及ぼすおそれがあります。
これに対応し、中小企業が自然災害に対する事前対策を取ることを促進することを目的として、2019年に中小企業強靱化法が成立、施行されました。この法律に基づき創設された制度が、「事業継続力強化計画」です。
事業継続力強化計画は、中小企業が防災・減災などの、災害についての事前対策を促進する目的で創設されました。
その取り組みを計画として取りまとめたものを、国(経済産業大臣)が認定するという制度になります。認定を受けると、様々な支援を受けることが可能になります。
事業継続力強化計画の主な目的は、防災・減災発生時の復旧計画を前もって策定しておくことで、自社にとって重要な事業を中断させない、もしくは中断してしまった場合でもできるだけ短期間で復旧させるための方向性を定めることにあります。
緊急時に優先すべき事項をあらかじめ定めておくことによって、活用可能な経営資源が限定的な被災時であっても、早期に事業を再開する見込みを立てられるということです。そのことにより、取引先や顧客への最低限の責任を果たすことが可能となり、事業中断によって取引先を失うリスクも最低限に抑えられることが見込まれます。
近年、災害発生は現実的な問題であり、近いうちにさらなる災害が発生する可能性も否定できません。こういった災害発生に対する対応力、事業継続力を中小企業に備えてもらうための制度と言えるでしょう。計画を策定することによって、国からの優遇措置を受けられるだけではなく、直接の事業展開についてもメリットがあるのがこの制度の特徴といえます。
事業継続力強化計画の認定を受けると、以下の支援を受けることができます。
1.資金調達の優遇
2.税制措置における優遇
3.補助金における優遇措置
それでは、それぞれの支援について、もう少し具体的に見ていきましょう。
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p id=”original_heading_003″>資金調達の優遇
事業継続力強化計画の認定を受け、一定の要件を満たした中小企業は、資金調達する際に以下の2つについて優遇措置を受けられます。
日本政策金融公庫からの低利融資
設備投資が必要な場合、その資金について低利で融資が受けられるようになります。日本政策金融公庫の基準金利から0.9%低い金利での融資を受けられます。日本政策金融効果は政府系金融機関と呼ばれ、政府が出資してできた金融機関です。
事業継続力強化計画のように、政策に沿って行う制度を資金面でサポートする役割を担っているのです。
なお、要件の詳細については、公庫に都度確認する必要があります。
中小企業信用保険法における特例措置
民間金融機関から融資を受ける時に信用保証協会の保証を利用したことのある経営者は少なくないでしょう。こういった信用保証協会の利用にも事業継続力強化計画は役に立ちます。
事業継続力協会計画の認定を受けると、信用保証協会による信用保証のうち、普通保証とは別枠で、追加の保証や保証枠の拡大といった措置を受けることができます。中小企業にとって安定した資金調達は重要な課題であり、資金調達上の優遇措置は大きなメリットとなるでしょう。
税制措置における優遇
事業継続力強化計画認定を受けた上で一定の要件を満たせば、計画に従って取得した設備において、その取得価額の20%までの特別償却が適用できます。
特別償却というのは、通常の減価償却と比べて、償却できる限度額を大きくするなどによって、所得税の発生を抑えることのできる制度です。
補助金における優遇措置
事業継続力強化計画の認定を受けると、補助金申請で加点項目として扱われる予定です。事業継続力強化計画自体がまだ始まったばかりの制度のため、全貌は明らかではありませんが、既に優遇措置として認められているものもあります。
例えば、中小企業の設備投資としての補助金がうけられる「ものづくり補助金」では、2019年の2次公募から事業継続力強化計画の認定が加点項目として扱われるようになりました。
ものづくり補助金において採択されるために最低限対応したい項目としても、今後重要になる制度と言って良いでしょう。
認定を受けるための前提として、防災・減災についての計画を策定する必要があります。詳細は、中小企業庁が示している「事業継続力強化計画と策定の手引き」を参照しながら策定していくことになります。
事業継続力強化計画の申請にあたっては、主に以下の5つのステップに基づいて計画を策定し、申請することになります。
1.事業継続力強化の目的の検討
2.災害リスクの確認・認識
3.初動対応の検討
4.経営資源である「ヒト・カネ・モノ・情報」への対応
5.平時の推進体制
いずれのステップも、災害に対してはあらかじめ検討しておくことが求められる項目です。
事業継続力強化計画では、事業を行っている地域で想定される具体的な災害の内容や、規模を想定するところから始まります。そして、こういった災害が発生した時に、いかに素早く事業を復旧したり、従業員や、顧客の安全性を確保するための手段を講じることになります。
必要があれば、災害が発生した時の被害を抑えるための設備を導入したり、従業員の避難マニュアルを作成するといったことも必要です。
事業継続力強化計画の制度自体が制定されて間もないこともあり、制度自体がまだまだ整備されていなかったり、詳細を確認しながら進めていかなければいけないこともあります。また、手引きの記載内容もあいまいで、中小企業の経営者や担当者が単独で策定するのは難しいように思われます。
具体的な作業については、中小企業診断士に相談・手続きを依頼しながら進めるのが良いでしょう。
アステップ・コンサルティングでは事業継続力強化計画の認定取得を基礎からサポートしています。お客様の組織内に災害対応を図るための制度作りから、認定取得までの手続きを一貫してサポートいたします。加えて、取得した事業継続力強化計画の認定を活かして、補助金申請、資金調達などで優遇を受けるためのサポートも実施しています。
申請については、計画を策定後、申請書の様式はじめ定められた資料一式を、地域を管轄する経済産業局に提出することになります。
計画の認定を受けた場合、どんな支援が受けられるか説明してきました。
そのほか、認定を受けた場合どのようなことができるでしょうか。
また、国全体として、どのような影響が考えられるでしょうか。
まずは本制度を踏まえ、策定しようとする中小企業を取り巻く関係者の事業が活性化することが考えられます。中小企業庁で想定している関係者としては、商工団体、サプライチェーンの親事業者、金融機関、損害保険会社、地方自治体などがあります。
それらの事業者についての事業が活性化すれば、企業活動全体が活性化し、国全体として、経済面で大きな効果が見込めるという期待も考えられます。
また、直接的な恩恵はないものの、事業継続力強化計画の認定を受けると、以下2つの付随的な効果が期待されます。
・認定事業者として、中小企業庁のHPで公表
・ロゴマークの使用が可能になる
上記2つは、事業継続力強化計画の認定を受けていることを対外的にアピールするためのものです。いずれも経営には直接影響しませんが、制度が浸透するにつれ、災害の発生に備えてしっかりとした対策を講じている企業として信頼が増すことが期待できます。製造業などにおいて、災害時に製造ラインがストップして、長期化してしまうことは取引先に対して大きなダメージともなります。
事業継続力強化計画として、政府のお墨付きが得られるほどの対策、準備を行っている企業となることで、取引先から安心して協業できる企業とみなされやすくなるという効果が期待されます。
防災・減災への取り組み推進、それに伴う中小企業への支援策として、事業継続力強化計画の制度を説明してきました。
自身の被災経験による取り組みもありますが、取引先や行政機関からの勧めによる取り組みも多く見られます。したがって、制度の周知・幅広い展開については、周囲からの働きかけが重要になると思われます。
これまで述べてきたように、認定を受けると様々なメリットを享受できますが、人手不足や取り組みへのハードルの高さといった、計画策定の障壁が多いのも事実です。
ただし、策定には至らないまでも、自然災害が発生したときの、自社及び他社への影響や対策を再考するきっかけとする企業も想定されます。
いずれにしても、中小企業が防災・減災のための対策を進めていくことで、被災しても早期復旧を可能とする体制の構築されていくことを期待したいです。
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