政府が中小企業支援策として実施しているものの1つに「経営革新計画」があげxられます。
経営革新計画とは、新たな取り組み(経営革新)によって経営の相当程度の向上を図る内容を盛り込んだ計画です。都道府県や支援機関に計画が承認されると、資金面でさまざまなメリットを享受することができます。
当記事では、経営革新計画の承認を受けるメリットと申請手順について解説します。
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経営革新計画の認定によって得られるメリットは多々あります。そのなかでも代表的なものを5つご紹介します。
日本政策金融公庫は、政府が100%出資する金融機関で、中小企業の資金面をサポートするためにさまざまな融資制度を設けています。
経営革新計画が承認されると、融資制度のひとつである新事業活動促進資金を、基準利率よりも低い金利で利用できます。
新事業活動促進資金の貸付限度額と貸付利率は次のとおりです。
<新事業活動促進資金の概要>
■国民生活事業
・貸付限度額:7200万円(うち運転資金4200万円)
・貸付利率 ;基準利率よりも0.65%低利
■中小企業事業
貸付限度額:7億2000万円(うち運転資金4億2000万円)
貸付利率 ;基準利率よりも0.65%低利
日本生活金融公庫の国民生活事業は小規模事業者や創業企業、中小企業事業は中小企業を主に支援しています。
経営革新計画の認定によって低利で融資を受けられる点はとても魅力的なメリットですので、資金調達をご検討の方はぜひ利用するとよいでしょう。
信用保証制度とは、信用保証協会が中小企業の債務を保証することで、中小企業が金融機関から借入をしやすくする支援制度です。
信用保証協会が保証できる限度額の上限は決まっていますが、経営革新計画の承認を受けることで、一般保証限度額に加えて、さらに同額分を別枠で設定してもらうことができます。
|
一般保証限度額 |
+ 別枠 |
普通保証 |
2億円 |
2億円 |
無担保保証 |
8000万円 |
8000万円 |
特別小口 |
2000万円 |
2000万円 |
保証限度額の増加により、資金調達はよりスムーズになります。こちらも経営革新計画の承認を受ける大きなメリットとなるでしょう。
経営革新計画の承認を受け、それにしたがって海外で事業を行う場合、スタンドバイ・クレジット制度や中小企業信用保険法の特例などの支援措置が受けられます。
スタンドバイ・クレジット制度とは、海外現地の金融機関から長期借入を行うときに、日本政策金融公庫が債務を保証するものです。限度額は1法人あたり4億5000万円で、「スタンドバイ・クレジット」という信用状を発行して保証します。
中小企業信用保険法の特例は、国内の金融機関から海外事業への直接投資を受ける際、保証限度額が引き上げられるものです。通常では1企業2億円(1組合4億円)のところ、1企業3億円(1組合6億円)に増額されます。
海外での事業展開が視野にあり、その構想を経営革新計画に盛り込む場合は、ぜひ利用したい優遇措置です。
都道府県などの自治体、信用保証協会、金融機関が三位一体となって中小企業を支援する「制度融資」でも、経営革新計画の承認を受けると優遇されます。
例えば、東京都の「産業力強化融資(チャレンジ)」では、経営革新計画の承認後に専門家派遣によるフォローアップ支援を受けると、通常よりも低利で制度融資を受けることができます。
また、経営革新計画は補助金制度の申請でも重宝します。
「ものづくり補助金」では、経営革新計画の承認は審査での加点項目となり、採択に有利に働きます。さらに、補助率も1/2から2/3に拡大されるので、受給できる補助金の額が大幅に増えます。
ものづくり補助金は最大1,000万円もの返済不要の補助金が得られる制度です。設備投資が必要な中小企業に人気の高い補助金ですので、加点が得られるのは大きなメリットになります。
また、ものづくり補助金だけでなく、様々な補助金でも経営革新計画は加点項目として認められています。
経営革新計画によって行った技術開発で成果が生まれ、特許出願する場合には特許関連費用が減免されます。
減免される内容は次の2点です。
・特許料の第1~10年分が半額になる
・審査請求料が半額になる
特許は思いのほか資金を要するものです。こうした減免制度も中小企業の資金面をバックアップするひとつです。
紹介したもの以外にも、販路開拓支援や高度化融資制度、食品流通構造改善促進機構による債務保証などの支援策が受けられるなど、経営革新計画の認定を受けることには、まだまだ多くのメリットがあります。
そしてなにより、経営革新計画を作成すること自体の効果が重要です。
経営革新計画を通して中期的な事業計画を作成することは、自社の抱える課題や進むべき方向性、今後取り組むべき具体的施策を明確にし、結果的に業績アップが期待できます。
経営革新計画を作成・申請して、経営環境の向上を図ることは、会社にとっても非常に有益であるといえるでしょう。
続いて、実際に経営革新計画の承認を受けるまでの流れを説明します。
経営革新計画には、申請できる対象事業者の範囲が定められています。まずは自社が対象にあてはまるのか確認しましょう。
経営革新計画を申請できるのは、次の資本金または従業員数のいずれかに該当する「中小企業者」です。
業種 |
資本金 |
従業員数 |
製造業、建設業、運用業 |
3億円以下 |
300人以下 |
ゴム製品製造業(※1) |
3億円以下 |
900人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
サービス業 |
5000万円以下 |
100人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 |
3億円以下 |
300人以下 |
旅館業 |
5000万円以下 |
200人以下 |
小売業 |
5000万円以下 |
50人以下 |
※1:自動車と航空機用のタイヤ・チューブの製造業、工業用ベルトの製造業は、製造業に該当します。
この他、一定の要件を満たした組合および連合会も経営革新計画の対象になります。
経営革新計画の申請時には必要な書類があります。基本的には、次の4点を作成・用意します。
・経営革新計画に係る承認申請書(様式第9)
・経営革新計画に係る承認申請書の写し
・定款
・直近2期間の事業報告書、貸借対照表、損益計算書
※ない場合は直近1年間の事業内容の概要を記載した書類
都道府県によっては、上記4点の他に書類の提出を求められる場合があります。
申請書類の中で、特に重要となるのが「経営革新計画に係る承認申請書」です。作成にあたっては、経営革新計画の目標値が大きなポイントになります。
経営革新計画の承認を受けるためには、「付加価値額または従業員一人あたりの付加価値額」および「経常利益」の目標伸び率を、一定以上に設定する必要があります。計画期間3~5年のそれぞれの終了時における目標伸び率は、下表のとおりです。
計画期間 |
付加価値額または従業員一人あたりの付加価値額の伸び率 |
経常利益の伸び率 |
3年計画の終了時 |
9%以上 |
3%以上 |
4年計画の終了時 |
12%以上 |
4%以上 |
5年計画の終了時 |
15%以上 |
5%以上 |
なお、付加価値額および経常利益は、次のように算出することが定められています。特に経常利益は会計原則とは異なり、営業外収益を含まない点に注意が必要です。
・付加価値=営業利益+人件費+減価償却費
・経常利益=営業利益+営業外費用
申請書などの用意ができたら、いよいよ申請です。
申請先は、1社で申請する場合と複数社共同で申請する場合で異なります。
・1社で申請する場合
申請する事業者の本社所在地がある都道府県に申請します。
・複数社共同で申請する場合
<代表が1社の場合>
代表する事業者の本社所在地がある都道府県に申請します。
<代表が複数社ある場合>
代表する事業者がいずれも同じ都道府県内に本社所在地がある場合は、その都道府県に申請します。
本社所在地が2都道府県にまたがる場合、同一の地方局管内であれば事業所管省庁の地方局または経済産業省の地方局に申請し、同一の地方局区域を越えれば事業所管省庁または中小企業庁に申請します。
申請後は都道府県等で審査が始まり、内容面の問題や不備がなければ承認に至ります。
ここで大きな注意点があります。それは、都道府県による経営革新計画の承認を得るだけでは、すぐにすべての支援措置を受けられるわけではないことです。
日本政策金融公庫や信用保証協会などの支援機関が実施する支援策を利用する場合は、それぞれの支援機関で別途、経営革新計画の審査を受ける必要があります。忘れずに覚えておきましょう。
なお、経営革新計画を開始した後に、計画の進捗状況調査があることも留意しておきましょう。
経営革新計画の承認を受けると、さまざまな支援策を利用できるので、資金面で大きなアドバンテージを得ることができます。
都道府県等の承認だけでなく、各支援機関の承認が必要である点を十分留意して、経営革新計画を活用するようにしましょう。
申請書の記載内容や申請方法でわからないことがあれば、都道府県の担当窓口の他、中小企業支援センターや商工会・商工会議所、よろず支援拠点などにも相談することができますので、積極的に活用するとよいでしょう。
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