企業経営において、資金繰りは常に重要事項です。中小企業や小規模事業者の場合、ビジネスで稼いだお金以外に政府や自治体の補助金を使って上手に経営されている方も多いのではないでしょうか。
補助金とは、国や県などの行政が、特定の政策の実施に沿った事業に対し、公募を行い、公募で正式に採択された企業や個人事業主に資金補助を行うものです。補助金は、受領した後のチェックが緩く、公募で定められた用途以外にも使いやすいというイメージが強いかもしれませんが、不正使用が発覚すると罰を受けることもあります。そのため、補助金を活用しようと考えている方は補助金の使用を規制する「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(略して補助金適正化法)」という法律は理解しておいた方が良いでしょう。
補助金適正化法について分かりやすく解説していきましょう。
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補助金適正化法の歴史は古く、 最初の施行は昭和30年に遡ります。
その後、何度も改正されていますが、直近では令和元年5月7日に改正されています。
補助金適正化法は、補助金の申請方法(第2章)、採択されたらやるべきこと(第3章)、適正に利用しなかった場合(第4章)、雑則・罰則(第5,6章)からなり、まとめて言えば「補助金の不正受給や目的外利用を罰する法律」です。
不正受給といえば森友学園の籠池夫婦の事件が記憶に新しいところですが、正式な審査を経ずに補助金受給にいたったものを指すだけではなく、補助金の利用過程で不正をした場合も、不正受給に当たります。
また目的外利用とは、公募申請で認められた目的以外のために補助金を使用した場合を指します。補助金によって使用用途は異なるため、申請の度に「どれに使えるのか」のチェックが必要です。
気をつけたいのが、「特定の政策」を補助するという性質上、補助金には使用期限が決まっているケースが多いことです。この使用期限内で納品しないと不正扱いになるため、発注・納品時期にも注意が必要です。次項で詳しく見ていきましょう。
補助金は元を辿れば国民の税金です。そのため、使用用途などにも厳しく制限が設けられています。補助金適正化法に違反するとどうなるのか、目的外使用と不正受給に分けて解説します。
補助金を適正に使用しなかった場合の罰則ですが、目的外利用の場合には以下のような罰則が設けられています。
・補助金交付決定の取り消し
・既に補助金が支払われている場合はその返還
・返還が遅延した場合には延滞金
・さらには該当の補助金以外の補助金の一時停止
などが行われます。
それでも返還に応じなかった場合は「国税滞納処分の例」により徴収されると定められています。つまり、税金に準じた取り扱いが行われますので、財産を差し押さえられ、公売される事になります(参考 補助金適正化法 第17-21条)。
どんなケースが補助金適正化法に定める目的外使用とみなされるかというと、例えば平成24, 25年度の「地域自主戦略交付金事業における効果促進事業」により、長崎県が事業費 24,045,000 円(うち交付金交付額 12,022,500 円)で購入したフォークリフトの事例があげられます。
補助金申請時には、このフォークリフトを「大規模地震発生等の災害時において、 緊急物資の搬入、荷さばきなどに使用する」としていました。しかし、実際にはこの新しいフォークリフト導入前に、それまで保有していたフォークリフトを売却して、この新しいフォークリフトに買い替え、一般貨物の運搬に使用していたということが判明し、補助金適正化法による違反と判断されました。
「災害時以外での使用」という点が違反と判断されました。
補助金等の交付の目的に反して使用したり、貸し付けたりなどするときは、当該補助事業等を所掌する各省各庁の長の承認を受けなければならないと定められています。にもかかわらず、承認を受けずに目的外に利用しているため、「黙ってやった」ところが、違反の直接的な原因になっているようです。
一方、補助金適正化法の不正受給に関しては、甘さが微塵も感じられない厳しい事例が続きます。
先に取り上げた森友学園の籠池夫婦が逮捕・起訴された事件に関しては「補助金の不正手段による交付」の疑いがかけられました(参考 補助金適正化法 第29-33条)。
発電機を設置し電気供給を始めたように見せ掛け、自家発電補助事業の補助金5億円を不正受給した発電会社「テクノ・ラボ」には、執行猶予のつかない懲役8年、罰金300万円が言い渡されました。
補助金適正化法 第29条では「5年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金」となっているのに、それ以上の処罰が下されています。これは、補助金適正化法違反以外に、詐欺罪も適用されたためです。詐欺罪となれば、1件の詐欺あたり最長10年の懲役がかけられます。
前述のように、補助金には使用期限が決まっていることが多いのですが、「納品日を納期内に改竄した」なども不正受給となり、詐欺罪が適用されます。
こうなりますと補助金返還だけでは済まず、社名が公表され、信用に大きく傷が付き、経営困難に陥りかねません。補助金の不正受給は、決して行わないようにしましょう。
ところで、少し不思議に感じた方もいるかもしれません。そもそも、どうやって補助金の不正受給や、目的外使用が明るみに出るのでしょう?
補助金の不正受給の発覚の1つが、会計検査院が行う会計検査によるものです。
会計検査は必ず行われるわけではなく、基本的には補助金を受けた事業者のなかから、5年以内にランダムに選ばれて突然行われます。また、従業員や下請け企業へのヒアリングや告発による発覚もあります。
そんなときに備え、「違反していない」ことをしっかり示す準備をしておきましょう。補助金は、「交付をいただいたときに指示された報告書を出せば大丈夫」と思いがちですが、そんなことは決してありません。
交付を受けた事業者には状況を報告する義務がありますので、しっかりと補助金を使用したエビデンス書類を保管し、帳簿にも記録しておきましょう。誰が見ても分かりやすく書類を準備しておき、補助金の不正利用の疑義をかけられそうな使用に関しては、書面で理由を記載しておきましょう。また、補助金で購入した備品などは、管理番号シールなどを貼って明確に区分して管理し、設置場所を整理しておくと分かりやすくなります。
使用項目ですが、補助金によって使用用途は異なっていますから、もし「これを買うのに使っていいのか?」など不安になったら、こまめに窓口へ問い合わせたほうが無難なのは、先の例を見た通りです。
法律は時代の流れによって変わっていくもので、附則を読んでいきますと、補助金がどんどん使いやすくなっていっていることが分かります。例えば第二百五十一条には、「政府は、地方公共団体が事務及び事業を自主的かつ自立的に執行できるよう」「経済情勢の推移等を勘案しつつ検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」としています。
実際、少し前までは、補助金で得た財産(土地など)の処分は認められなかったのですが、「補助された事業の関連事業」であれば、転用や譲渡、交換や貸付が承認される特例が認められるようになってきました。
余りに融通が利かず、むしろ税金の無駄であることが指摘されてきた結果です。
こうした流れを受け、補助金で購入したもののうち、税金の無駄になってしまいそうな財産に関しては、「特例」の適用を考えるのも1つの手です。この場合、必ず行政庁に相談し、承認を得てから行って下さい。
補助金には厳しい審査がありますので、ついつい受給できるかどうかという点ばかり注意しがちです。
しかし、実際には補助金は採択されて、交付されてからが重要です。
誤った使用や、違反になってしまうと罰則を受けたり、補助金の返還を求められるだけでなく、世間に社名が公表されて信用が低下することもあるためです。
こういった補助金の不正利用に抵触しないためには、補助金の交付を受けてから適切な管理を行っていくことが大切です。アステップ・コンサルティングでは補助金交付後の管理や、報告に関するサポートも行っております。補助金適正化法に不安を感じる方は是非ご相談ください。
昨今話題になりがちな補助金の不正受給、不正使用などについて解説しました。
補助金適正化法の特例の制定により、「ちゃんとこまめに問い合わせれば」多少は使いやすくなりました。
補助金にはそれぞれに使用目的や、使用期限などが明確に規定されています。補助金ごとに定められた規制に違反すると、補助金適正化法による罰則の対象になります。
さらに、詐欺罪が適用されて会社の信用も落ちてしまう危険性まであります。補助金の使用に関しては、必ず補助金の制限を守って行うようにしましょう。
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