今回は、事業を行うにあたって、経営者に是非とも知っておいて頂きたい銀行融資の基礎を取り上げます。
事業運営に必要な運転資金や設備資金(以下事業性資金)を銀行(含む信用金庫、信用組合)から借入することが必要という企業や、個人事業主は多いでしょう。
銀行融資ってどういうものなのかという基礎と、審査に落ちて断られてしまう理由を説明します。
ここでは担保の提供や、信用保証協会付き融資の適用は行わず、純粋なプロパー融資について取り扱います。このポイントをおさえておけば、保証協会付融資や、担保付融資も、有利に申込できるようになるでしょう。
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そもそもですが、銀行融資の種類は資金使途によって分けられます。資金使途とは、簡単に言うと、何に使うのかということです。この資金使途によって、更に融資の種類を分けると、事業性資金と消費性資金の二種類に分かれます。
事業性資金は、運転資金や設備資金といった、事業を運営していくにあたって必要な資金を言います。
例えば、事業を行うために必要になる商品の仕入代金の支払いや、店舗や工場といった設備への投資資金の支払いです。借入の対象は、企業や、事業を営んでいる個人事業主になります。
一方、消費性資金(非事業性資金ともいいます)は、住宅ローンや教育ローン、カードローンなどです。事業を行っている法人や、自営業者ではなく、個人が生活のなかで使用するための資金といった意味になります。
今回対象とする銀行融資は、「事業性資金」となります。
事業性資金の審査は、決算書や確定申告書によって行われます。これは、源泉徴収票等で審査が行われる消費性資金とは異なる点です。
事業性資金の審査にあたり、銀行は借入人の貸借対照表や損益計算書と言った決算書類や確定申告書をもとに、債務者区分判定及び信用格付という、ランク付けを行い、そのランクに応じて融資実行の可否を行います。
銀行が設定するランクのことを信用力とも呼びます。この信用力に基づき銀行は、融資可否や、融資可能な金額(与信限度額)などの様々な判断を行なうことになります。
事業性資金の融資金額(可能額)は、運転資金と設備資金で考え方が異なります。そのため、それぞれのケースに分けて解説していきます。
運転資金については、基本的に売上代金が入ってくるまでの立替払いという考え方で審査されます。
例えば、製造業を営む企業のケースですと、商品を製造するための材料の仕入れに5億円がかかり、その支払いを1月に支払うとします。1月の時点で当社の手元に現預金が5億円あれば問題ありませんが、無かった場合は5億円を借りて支払う必要があります。
この企業が2月に仕入れした材料で商品を製造・販売し、翌月の3月に売上代金が入金されるものと仮定しましょう。
対象となる商品が10億円で売れる契約を結び、3月に売上代金が入金される予定であれば、融資の期間は立替払いをしている2カ月、という考え方になります。
貸借対照表に沿って運転資金の融資金額を算式に表すと、以下の通りです。
運転資金=売掛金–(買掛金+棚卸資産)
運転資金にはその他、納税資金や賞与資金、創業資金も含まれます。融資の期間については銀行との交渉で、もっと長くすることも出来ますが、運転資金であれば、概ね5年以内が目安です。
設備資金については、設備投資やその土地の取得費用にかかった金額が、融資の金額となります。融資の期間については、その設備から生まれてくる収益により融資金額をいつまでに返済出来るかによって決まります。
また、設備資金の融資期間は法定耐用年数の範囲内が原則です。法定耐用年数とは、簡単に言うと、その建物の価値が0になるまでの期間です。建物は年数が経つと劣化していきますよね。その劣化が進んだ結果、価値が0になるまでの期間です。
例えば鉄筋・コンクリートですと15年ですので、設備投資の対象が鉄筋・コンクリートの建物でしたら、返済期間は15年以内となります。
事業性資金の融資方法と返済期間(目安)は以下の通りです。運転資金と設備資金に分けて記載します。返済期間については1年以内を短期、1年以上を長期と定義します。
以下に、銀行で利用する融資種別と、それに応じた借入可能期間を説明します。
①当座貸越
当座貸越借入期間:1週間~1年以内
銀行に当座預金口座や、融資を行うための仮の当座口座(特別当座といった呼ばれ方もあります)を開設し融資を実行する方法です。
対象となる口座に対して、貸越極度と呼ばれる融資の枠を予め設定し、その枠の中で融資を実行します。例えば10億円の貸越極度を設定し、今月は1億円を借り、来月は全額返済、再来月には5億円借りるといったことが可能です。
返済方法については、一括返済でも決まったタイミングで分割返済も可能です。
②手形割引
手形割引:1週間~3カ月以内
借入人の皆さんの取引先が振り出した手形を、銀行に割り引かせて融資を実行する方法です。手形には支払い期日があり、銀行に預けておくと(取立とも言います)指定した口座に、期日に入金されます。
この手形を支払い期日より手前で現金化したい場合に、銀行に依頼して「割引」という依頼をすることで、手形金額から金利と手数料を引いた金額を融資してもらえます。
返済の期間は手形の支払期間までですので、一般的には長くても3カ月程度です。手形割引に対する返済は、手形の期日に取引先が手形の決済を行うことで自動的に行われます。
③証書貸付
証書貸付:1カ月~5年以内
証書貸付は、長期の融資の際に利用されることが多い融資方法です。金銭消費貸借契約書(証書)を締結してお金を借入する方法です。詳細な返済条件や、約定を定めることができるため、長期の貸付に適しているのです。
証書貸付であっても、運転資金の借入であれば、返済期間は長くて5年が目安です。返済方法は、一括返済は不可で、分割返済になります。
設備資金の返済期間
証書貸付:15年以内
設備資金の借入は、証書貸付以外の方法で借入することが無いと言っても間違いないでしょう。設備資金は短期(1年)以内で借入することがほぼ無いためです。
返済期間は、投資対象設備からの収益計画、法定耐用年数に応じて決まり、一般的に長くて15年が目安です。
設備資金・証書貸付の返済方法は、一括返済は不可で、分割返済になります。
融資を行う銀行に、既に口座を保有されている前提での説明となります。
1.銀行への融資相談
融資を受けたい経営者、もしくは財務担当者は、以下を銀行の融資担当に伝えれば、融資の相談をキックオフ出来ます。
融資相談時に伝えること
① 資金使途:運転資金or設備資金
② 融資希望金額
③ 返済希望期間
これらの情報は、経営者がやりやすい方法で伝えれば良いでしょう。定期的に銀行の融資担当者が訪問される企業であれば、そのタイミングでも良いですし、そうでなければ、担当の融資担当者に来社を依頼したり、銀行に訪問するのでも良いでしょう。
2.銀行へ資料や情報を提出
銀行は融資の判断をするための決裁手続の一つである稟議の作成を始めます。
稟議に必要な資料や情報は以下の通りです(銀行により異なりますので一般的なものを記載します)
① 法人:決算書×3期分+法人の確定申告書×3期分、個人事業主:個人の確定申告書×3期分
法人の決算書は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書で一式です。勘定科目明細についても原則必要となります。
② 事業概要が分かる資料
③ 事業計画が分かる資料
④ 登記簿謄本
銀行では決算書の分析をし、借入人の財務分析を行います。といっても最近では決算書をデータベースに打ち込むことで、システムが分析を行ってくれますので、そこまで仰々しいものではありません。
ただ、過去に売上や利益が大きく増減したり、詳細不明の資産や負債が多額に計上されたりしている場合には質問をされるケースがあります。また、今後の将来性の判断の観点から②③④をもとに、事業概要や事業計画について質問されることもあります。銀行員の所謂目利きの部分です。
3.銀行内部での決裁手続き
前述までの流れを踏まえて、銀行では借入人の信用リスクと融資の案件のリスクを計量し、融資の可否、条件を判断、銀行内部での稟議決裁を行います。
銀行内部で、融資担当者が稟議を作成し、決裁者に対して稟議を回付していく流れになります。つまり、融資担当者は、銀行側の人間として与信判断を行う窓口でありつつ、借入希望者の味方として、銀行内部で説明を行うことにもなります。
そのため、審査に通過して、融資を受けるには、融資担当者を味方につけるということが重要になります。融資担当者は、銀行内部で融資を説得するため、様々な質問にも対応しています。経営者に対して、追加書類の依頼や、質問が行われることも多いですが、極力対応するようにしましょう。
なお、銀行内部では、リスクの度合いに応じて、支店長・部長の権限で決裁が出来るものと、本部の審査部での権限まで必要になるものがあります。信金・信組よりも地方銀行、地方銀行よりも都市銀行の方が、支店長・部長決裁で融資できる金額は大きくなります。
稟議を回し始めてから1週間もあれば決裁は完了します。
4.融資契約の締結・融資実行
稟議決裁後、融資契約の締結に移ります。銀行制定の融資契約様式(銀行取引約定書や金銭消費貸借契約証書)に押印して提出します。
この際、印鑑証明書の提出を求められます。書類に不備が無ければ銀行で融資実行のオペレーションがされ、所定の口座に融資の資金が銀行から振り込まれます。
今までの説明した内容を踏まえ、中小企業や、個人事業主向けの融資の審査が通らない理由をまとめますと、以下の通りとなります。
1.不芳属性先と判断された
不芳属性先とは、暴力団や総会屋等、所謂反社会的勢力のことです。暴力団排除条例等、反社会的勢力との取引は法令で禁じられています。
そのため金融機関では、取引にあたり取引先が反社会的勢力に該当しないかどうかをスクリーニングしています。
「融資の流れ・必要書類」で記載した登記簿謄本や、代表者の本人確認資料の情報をもとにスクリーニングを行います。仮に反社会的勢力との繋がりがあると認識・判断された場合には融資はおろか、口座の開設も出来ません(口座を解約させられることもあります)。
2.過去に破綻・延滞の履歴がある
不芳属性先のスクリーニングと同時並行で、過去、破綻や延滞があったかどうかを調べられます。そこで該当情報があると、銀行としては融資にネガティブになります。
銀行は過去情報に重きを置きますので、一度でも破綻・延滞の実績があると融資は厳しくなります。
個人事業主の場合、個人信用情報で確認されますし、法人、法人代表者についても銀行協会の不渡り照会などが行われます。過去に、手形の不渡りを起したことのある法人、法人代表者はばれてしまいます。
3.信用力が低いと判断された
「事業性資金の審査方法」欄に記載しましたが、事業性資金の場合、銀行側に貸倒れリスクが存在することから、債務者の信用力が重要となります。
信用力の判断材料は多岐に渡りますが、当期利益と純資産額が重要な項目になります。当期利益が3期以上連続で赤字になっている場合や、純資産額がマイナス所謂債務超過の場合には、信用力に問題ありと判断されてもおかしくありません。
その場合、新規で融資を受けることは難しくなります。また信用力がある程度あると認められた場合でも、信用力対比での融資金額が大きかったり、融資期間が長期化している場合は審査が通りにくくなります。
4.銀行担当者の能力が低い
融資は銀行担当者が銀行内部で、課長(次長)→副支店長(副部長)→支店長(部長)、場合によっては審査部の決裁を経て実行されます。
銀行担当者が忙しくて、内部での稟議申請などに十分に対応できていなかったり、そもそも能力が低く案件を説明しきれない場合、最終的な決裁を得ることが出来ません。
中堅・中小企業の銀行担当者は比較的若手で未熟な担当が多いですので、もし担当者に不安を感じた場合には、上席の課長や副支店長に直接相談することをお薦めします。
事業性融資は銀行側にリスクがあるため審査の目線が厳しくなります。
事業性資金の融資にあたっては担当の銀行員とよく会話をし、銀行側が求める情報や資料を、銀行側がもとめるタイミング・形式で提供することで審査がスムーズに進むことがあります。
銀行からの融資を得られやすくするために大切なことは、申込~審査までの基本的な流れを理解しておくことと、審査に落ちる理由・要因をおさえて対応しておくことです。
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