「税金の申告のための最低限の経理はやっているけれど、管理会計や事業別の損益計算書作成はまだ導入できていない」、もしくは「事業別PLを作成した方が良いと聞いたことがあるがメリットが解らない」という中小企業経営者は多いでしょう。
さらに、「管理会計・事業別PLを導入すればさまざまなメリットがあることはなんとなくわかっているけれど、導入にはコストがかかるので、メリットやデメリットについてきちんと理解しておきたい」という経営者もいるでしょう。
中小企業経営者の中には、管理会計の導入や、事業別PL(損益計算書)作成は、経営判断の精度を高めたり、経営管理を強化するうえでは必須の制度です。
この記事では、主に中小企業経営者の方(あるいは経理財務担当者の方)に向けて、管理会計や事業別PL導入の具体的なメリット・デメリットや導入方法について解説いたします。
Contents
まず、管理会計とはそもそもどういうものなのか?について、中小企業が最低限導入を検討すべき事柄にフォーカスして解説いたします。
管理会計とは、ごく簡単にいえば「決算書の情報を、経営の判断基準としてより使いやすくするためのもの」といえます。あくまで経営判断に活用することを目的としていますので、正式な決算書(申告書)のように厳格なルールはなく、会社ごとの判断で作成することが可能です。
例えば、すべての企業が毎年作成している損益計算書には、売上高や売上原価といった数字が順番に並んでいます。これらは極めて重要な指標であることは間違いないですが、ただ単に単年度の数字を眺めていても得られるものはそれほど多くはありません。
決算書の数字を経営に生かそうと考える場合には、さまざまな角度からの「比較」の視点を持つことが重要になるのです。例えば、次のような視点から決算書を見比べると、会社の状況について様々なことが見えてきます。
自社のビジネス状況を具体的に把握したり、コストの増減について項目別に把握したりすることが可能となります。単年度の数字を見るだけでは解らないことが、複数の年度で比較したり、増減を分析することで解ってくるものもあります。
例えば、「2018年度は2017年度に比較して粗利率が1%も向上している。事業の構造には大きな変化は見られないから、購買担当者の営業努力が実を結んでいるのかも」といったように、数値を年度比較して事業の状況を把握したり、「2016年度からスタートしているこの経費項目の削減プロジェクトが順調に進行している」といったように、勘定科目別に増減しているコストの把握を行ったりということが可能となります。
自社と競合他社の事業規模間の違いや、重点的に投資している項目の差がわかります。また、利益率や、売上高に対する人件費率のような項目を他社と比べることで、自社の生産性の高さなどを確認することができ、自社の他社と比べた強み・弱みを知ることができます。
ただし、財務指標をすべて公開している上場企業と異なり、中小企業の場合には同業他社の経営数値を知ることは難しいのが実情です。
比較的規模の大きい非上場会社の場合は、会社四季報(未上場会社版)や、日経テレコンなどに情報を出していることがありますので、参考にしてみてください。
また、TKC会員である税理士事務所の顧問先中小企業の数値をまとめた「TKC経営指標(BAST)」を見ると、業種別に優良企業・黒字企業の平均数値を参照できます。
1つの会社に属する複数の事業があるという場合、それぞれの事業損益に関する数値を比較することで、会社のどの事業が全体の利益に貢献しているのかがわかります。
なお、事業別の損益状況を把握するためには、「事業別PL(損益計算書)」の作成が必須となります(事業別PLについてはこの記事の後半について解説しています)。
商品別のPL(もしくは粗利)を見ることで、どの商品が会社の利益に貢献していて、重点的に投資していくべきなのかがわかります。管理会計のもっとも代表的な手法として、「原価計算」というものがあります。
原価計算とは、簡単にいえば、1つの製品を作るために、どのタイミングでどのようなコストが発生しているのかということを把握するための計算を言います。商品別のコストや利益が解れば、どの商品が利益を出しているのかだけでなく、値引き可能な範囲なども知ることができます。
主に製造業を営む企業に適している手法ですが、製造業以外の企業でも原価計算の考え方を応用することで、売上原価の発生原因をより詳細に把握することが可能となります。
このように、さまざまな「比較」の視点から、決算書の数字をかみくだき、経営者の経営判断に役立つ情報へと変換する作業のことを、「管理会計」と呼んでいます。
管理会計を導入することによって、これまで経営者や各部門責任者の「肌感覚」で行われていた経営判断を、より客観的なデータに基づいて行うことが可能となるのです。感覚に頼った経営を、根拠に基づいて、そして実際の数値に基づいて行うことが可能になります。
管理会計の導入は、企業目標の数値での把握を可能にしますから、後で見る事業別PLの導入効果もあいまって、課長級・部長級の人材であっても経営全体を見渡した現場判断ができるようになるというメリットも期待できるでしょう。
一方で、管理会計を導入した場合には次のようなデメリットが生じる可能性があることも理解しておく必要があります。メリット・デメリットのそれぞれを理解しておくことが大切です。
管理会計の導入は、これまでは経営者の商売カンに頼っていた経営判断を、客観的な数値に基づいて行えるようにするという側面があります。その結果として、経営者が1人で行う経営判断と比較すると、管理会計に基づく経営判断には時間がかかる可能性があります。
このことは経営判断が緻密化することとトレードオフの関係といえますが、会社の成長を中長期的な視点からみて有効な方法を検討する必要があるでしょう。
管理会計では経営のさまざまな側面について数値での目標設定を行うことになります。
数値での目標設定は活動の目的を明確化させるメリットがある一方で、目標数値に一見すると貢献しないものの、重要な活動(顧客のすそ野を広げるための販促など)がおろそかになってしまう可能性があります。
管理会計を導入するためには、当然ながら専門ソフトの導入や各部門のスタッフの業務量増加が問題となります。
また、後で見るように管理会計の導入には定期的なチェック体制の構築が必須ですから、そのための担当人員を社内で確保しておく必要もあるでしょう。
管理会計を導入するためには、専門のERPシステム(会計ソフトの管理会計バージョンのようなもの)を経理業務に導入することが基本となります。
一方で、経理スタッフによる作業の他にも、さまざまな部門の協力が必要となりますので、管理会計システム導入の目的について全社的に共有しておく必要があるでしょう。
また、管理会計の仕組みは、いったん構築してしまえばそれで終わりというものではありません。
会計上の数値と実際の数値が解離してしまわないように注意すると共に、「そもそも必要な情報を提供できているか」を経営者の視点でチェックする必要があります。これには数週間~数か月などのモニタリング期間を設けるのが有効です。
モニタリングは「会社活動が数値目標からみて必要なパフォーマンスを上げているか」と、「そもそもその活動自体の有用性があるか」の2つの視点から行いましょう。
経営判断に役立つための指標を提供することが管理会計のそもそもの目的です。
経営者の視点から見て不要な数値の羅列が報告されてくるだけではかえって判断ミスを誘発する可能性もありますから注意が必要です。
なお、中小企業が簡易的に導入する管理会計や、お試しで実践してみるのであれば、専門的なソフトを導入せずに管理会計を行うことも可能です。最初から大掛かりなソフトを導入したり、大きな費用をかけることに抵抗がある方は、まず可能な範囲で管理会計の効果を確認してみるのがよいでしょう。
管理会計の導入にあたっては、アステップ・コンサルティングがお手伝いいたしますので、まずはお気軽にご相談ください。
中小企業経営においては、メインとなる事業の他にも複数の事業を行っていたり、これから成長が見込める市場に対してテスト的に事業展開していたりといったケースもあるでしょう。こうしたそれぞれの事業が会社全体の利益にどれぐらい貢献しているのか?を把握するためには、事業別にPL(損益計算書)作成することが有効といえます。
各事業のパフォーマンスを客観的な数値を用いて比較できるようにすることで、将来的に自社が進むべき方向や重点的に投資を行うべき事業を知ることが可能となります。
ごく簡単な事業別損益把握の方法としては、通常の会計ソフト入力作業で、「その取引がどの事業活動に属するものなのか」の項目を作成して入力していくことが考えられます(市販ソフトでも上位版であればこうした項目入力に対応していることが多いです)。
経理スタッフの業務負担は増えることになりますが、事業別PLの作成には「どの事業がどのぐらい会社の利益に貢献しているのかを把握する」という非常に重要な役割がありますから、ぜひ導入しておきたいところです。
また、事業別PLの作成に当たっては、複数の事業にまたがる費用(間接費)をどのように配賦するかといった問題もありますので、導入に当たっては必要に応じて専門家の支援を受けるようにしましょう。
もちろん、アステップ・コンサルティングでは管理会計の導入から、事業別PLの作成、そして、経営判断に活かすためのPDCAサイクルの実践に至るまでをお手伝いいたします。
今回は、中小企業経営者の方向けに、管理会計や事業別PL作成を導入するメリットやデメリットについて解説いたしました。管理会計や事業別PLの導入は経営者自身の経営判断に役立つのみならず、現場担当者のレベルアップも期待することができます。
管理会計を導入すれば、「どの事業が利益を出していて、どの事業が損しているのか」、「利益に貢献している商品はどれか」、「取引先別の損益状況」、「値引き可能な範囲」などの有用な情報を入手することができます。
管理会計・事業別PLは企業が成長段階に移った段階でぜひ導入すべき項目といえますから、検討してみてください。
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