経営者からすると人件費は悩みの種です。優秀な人材は事業に必要ですが、人を雇えば当然費用が発生します。さらに、正社員、契約者などとして雇えば固定費になります。
また、日本でも同一労働、同一賃金が導入されるという動きがあります。2021年には中小企業にも義務化されますので、同じ仕事をしているのに非正規雇用者だからといって安い賃金しか支払わないということはできなくなります。
であれば、非正規雇用者を正社員にすることからは避けて通れません。非正規雇用者の正社員登用、処遇改善でもらえる助成金、「キャリアアップ助成金」をぜひ検討してみてください。
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非正規雇用者の勤務体系を改善するともらえる助成金として、「キャリアアップ助成金」が挙げられます。最初にキャリアアップ助成金がどういったものかの概要をご説明しましょう。キャリアアップ助成金には、7種類のコースがあります。
キャリアアップ助成金の7種類
(1) 正社員化コース
(2) 賃金規定等改定コース
(3) 健康診断制度コース
(4) 賃金規定等共通化コース
(5) 諸手当制度共通化コース
(6) 選択的適用拡大 導入時処遇改善コース
(7) 短時間労働者 労働時間延長コース
今回は、もっとも利用者が多いと考えられる「正社員化コース」、それから「賃金規定等改定コース」に限定して、助成金のポイントを見ていきましょう。
その他のコースは後日あらためて説明します。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、パートタイマー等の有期雇用者を、計画に従って正社員に登用することで助成金がもらえる制度です。
下記の額は、正社員にした従業員一人あたりについての場合で「中小企業」の金額です。
有期雇用者20人を正社員にした場合で、かつ生産性の向上が認められる場合(後述します)の助成金の額は、1,440万円(=20人×72万円)ということになります。
キャリアアップ助成金は中小企業・小規模事業者に優遇措置がありますが、その他の法人(大企業)も活用できます。
中小企業以外の場合(大企業)はこうなります。
有期雇用者を正社員にする・・・427,500円/生産性の向上が認められる場合、54万円 有期雇用者を無期雇用にする・・・213,750円/生産性の向上が認められる場合、27万円 無期雇用者を正社員にする・・・213,750円/生産性の向上が認められる場合、27万円
法律により、中小企業と大企業の区分は異なります。ある法律では大企業で、別の法律では中小企業に分類されることは普通ですのでご注意ください。
キャリアアップ助成金を含む、労働関係の助成金に関しては、中小企業の定義は次の通りです。
資本金 | 常時雇用する労働者 | ||
小売業・飲食店 | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
キャリアアップ助成金の基準となる中小企業は、資本金・労働者数(常時雇用する労働者)で判断されます。さらに、業種によって基準が異なることも注意する必要があります。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは、非正規雇用者を、正社員にすることによってもらえる助成金です。要件を満たせば、原則として助成金を受け取ることができますので、是非とも活用したい制度です。
正社員化にあたっては、勤務地限定社員、職務限定正社員、短時間正社員などに登用するでも構いません。短時間労働者でも、雇用期間の定めがない正規社員に登用すれば助成金を受けられるのです。
但し、正社員化によって賃金は、従前の非正規雇用者のときと比べ、5%以上増額している必要があります。それから、派遣労働者を直接雇用に変える場合のオプションがあります。
こちらは、中小企業も大企業も同一です。
・派遣労働者を正社員にする場合1人あたり、285,000円/生産性の向上が認められる場合は36万円
正社員化コースで受け取れる助成金の金額一覧に、「生産性の向上が認められる場合」というのがが出てきます。生産性の向上が認められるの要件を満たせば、助成金の金額が増加するので、是非とも確認しておきたいポイントです。
助成金の増額される「生産性の向上が認められる場合」とは、次の状態を指します。
直近の会計年度における「生産性」が、次のいずれかに該当 3年度前と比較し、6%以上向上 3年度前と比較し、1%以上向上しており、金融機関から一定の「事業性評価」を得ていること
この計算が複雑ですが、ただ、助成金の申請段階から生産性向上を気にしなくても構いません。
「生産性向上」は助成金の要件ではないためです。
正社員化によって助成金自体はもらえますが、さらに生産性の向上が見られた場合は、ボーナス的に助成金が増える可能性があるわけです。二段構えの珍しい助成金です。
この「生産性の向上」によるボーナスは、次の賃金規定等改定コースほか、各コースでも適用されます。生産性の向上が認められるような、意義のある正社員化が推奨されるというわけです。
次に、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)を見ていきます。
キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)についても、同一労働・同一賃金の流れに沿っています。といっても、非正規雇用者をただちに正社員と同一賃金にすることまでが求められているわけではなく、有期契約雇用者の賃金規定を「2%」アップすることで助成金が得られます。
キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)は、助成金がもらえる仕組みは単純なのですが、金額がやや複雑です。次の区分けごとに額が異なるためです。
すべてのパターンの網羅については、リーフレットに譲りまして、例を挙げます。
〈「中小企業」で、「3人」いる非正規雇用者のすべての賃金規定を「2%」アップしたとき〉
→190,000円の助成金
→生産性向上の場合は、240,000円
〈「中小企業」で、「8人」いる非正規雇用者のすべての賃金規定を「3%」アップしたとき〉
→399,000円の助成金
→生産性向上の場合は、504,000円
〈「中小企業」で、一部の非正規雇用者「20人」の賃金規定を「2%」アップしたとき〉
→285,000円の助成金
→生産性向上の場合360,000万円
〈「大企業」で、一部の非正規雇用者「30人」の賃金規定を「2%」アップしたとき〉
→190,000の助成金
→生産性向上の場合360,000円
助成金対象者は100人までで、申請回数は1年度に1回までです。
労働系の助成金は決して難しいものではありません。要件を満たせば、助成金を受けられる可能性はかなり高いと言えます。そのため、従業員の正社員化、無期雇用化を検討されている事業者や、賃金上昇を考えている経営者には是非、活用していただきたい助成金です。
キャリアアップ助成金の場合も、次を着実に実行することが大切です。
1) 法律上求められている社内規程を整備しておくこと
2) 社内規程に則って、労働者の待遇改善をおこなうこと
3) 待遇改善を実施した事実を証明する書類を揃えること
4) 助成金の申請書類を作り、3と一緒に提出すること
本来簡単なはずの助成金が難しくなるのは、例えば労働基準法で求められている就業規則を整備していないからです。
中には、雇用保険に加入していない会社もあります。これらを整備するために、社会保険労務士等の専門家に依頼すると、初期費用が掛かってしまいます。
ですが、本来やるべきことをやっていないのは、スタートラインにも立っていないということですから、仕方ないでしょう。併せて、助成金の対象となる労働者の待遇改善ルールを規程にする必要もあります。さらに、キャリアアップ助成金受給のためには、次の施策も必要です。
それから、これも労働系助成金の共通項ですが、待遇改善の6か月前から、待遇改善の1年後までに「解雇」「会社都合」の退職を出してしまうと、助成金はすべて失います。
まず、「キャリアアップ計画」を所轄の職安に提出して認可を受けます。キャリアアップ計画を作成するには、就業規則制定時のように従業員の意見を聞く必要があります。
それほど難しいという訳ではありませんが、慣れていない経営者であれば難しいこともあると思われます。アステップ・コンサルティングでは、キャリアアップ計画の作成や、申請作業をお手伝いいたしますのでご相談下さい。
それから、待遇改善に掛かる規程の改定をおこないます。そして、正社員化等の待遇改善をおこないます。6か月後の賃金を支払ってから、助成金の支給申請を職安でおこないます。
キャリアアップ助成金は、要件を満たして、手順をしっかりと踏むことで、もらえる可能性の高い助成金です。きちんと社内規程を運営している会社ならば、キャリアアップ助成金は難しくありません。
キャリアアップ助成金を活用すれば、社内の雇用環境の改善につながりますし、生産性の改善にもつながります。
同一労働同一賃金を見据え、計画的に非正規雇用の従業員のキャリアアップを図っていきましょう。
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